紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
連絡先:kiikankyo@zc.ztv.ne.jp 
HOME メールマガジン リンク集 サイトマップ 更新情報 研究所

 本の紹介

 後藤 伸: 虫たちの熊野 −照葉樹林にすむ昆虫たち−

             紀伊民報社 2000年発行 256頁

(本の構成)

  はじめに  ー照葉樹林の熊野ー

 ・熊野の虫たちに魅せられて ー虫の視点から見た半世紀ー
  昆虫記1 熊野の森から生まれた昆虫たち
  昆虫記2 照葉樹林をすみかとする昆虫たち
  昆虫記3 黒潮にのって、熱帯系の昆虫たち
  昆虫記4 熊野から離れられない寒冷系の昆虫たち
  昆虫記5 不思議な習性の昆虫たち
  昆虫記6 自然の荒廃に警鐘を鳴らす昆虫たち

 ・南方熊楠と熊野の森  日本昆虫学の先駆者/自然のものさし神島

 ・理想的なビオトープを育てる

 ・熊野の昆虫たち  半世紀の虫友を代表して

  おわりに

(書評)

 著者は、少年時代から昆虫採集に親しみ、旧制中学、和歌山大学j時代、和歌山県下での中学・高校教師時代以来、現在まで、ずっと紀伊半島(特に、南紀)における昆虫とそれをはぐくむ自然を観察してきた。本書から、著者が半世紀以上にわたり、生物多様性に富む紀伊半島で繰り広げてきた様々な昆虫との付き合いの息づかいが伝わってくる。その中で、紀伊半島における戦後の大規模造林による自然林の消滅と、それにともなう昆虫相の変遷も見てきている。

 紀伊半島は、温暖な気候と照葉樹林が残されていることから、熱帯・亜熱帯系の昆虫が飛来し、あるものは定着し、あるものは定着しきれないで消えていった。また、反面、不思議なことに寒地系の昆虫で、紀伊半島の照葉樹林地帯から離れないで生息している種もいる。著者は、単に昆虫採集を楽しむだけでなく、紀伊半島における昆虫の生息条件や生態にも強い興味を持ち、現場を詳しく知る観察者の目でそれらを解き明かそうとする。

 本書では、110種類の昆虫について、昆虫の写真、それらの昆虫と著者とのかかわり、昆虫と紀伊半島の自然とのかかわりが、見開きで1頁ずつ使って掲載され、読みやすい構成となっている。掲載されている昆虫の種類はいずれも紀伊半島に生息し、しかも、かなり珍しい種類が多い。読み終わった後で、これらの昆虫についての知識が増しているのを実感するとともに、紀伊半島の自然と昆虫相の豊かさに驚いてしまう。

 その一方で、紀伊半島の自然を代表する照葉樹の原生林や自然林の減少や、湿地の減少などの生息環境の変化によって、それらに関係する昆虫の種類が衰退しているという事実も示されている。

 本書によって、昆虫を通して紀伊半島の生物多様性の豊かさとともに、残された紀伊半島の自然を保全していくことの重要性を知ることができる。(2006.10.10/MM)

「本の紹介」へ
「ホーム」へ